口蹄疫の対応の遅れと農畜産業の保護主義批判の反批判

口蹄疫の対応が遅れているのは、マスコミが伝えるとおりで、批判さるべき部分もある。
↓の医師が、仰せのとおり、ワクチン接種に踏みきれなかった事情の文脈に間違いはない。

http://agora-web.jp/archives/1023695.html
関係者には周知の事実だが、マスコミの不勉強のために報道されない事実がある。

口蹄疫ワクチンが存在するのに、接種されず、殺処分ばかりやっているのは、非関税障壁を維持したい畜産業界と、それに結託した(自民党時代の)農林水産行政のせいである。もちろん、赤松農林水産大臣とも、民主党政権とも関係がない。

結局、一連の口蹄疫騒動は、非関税障壁を維持するために、ワクチンをあえて使わなかった畜産業者と農林水産行政当局とが、自分で招き寄せた災害なのだ。
 
私は、口蹄疫という病気による被害よりも、この非関税障壁が撤廃されることによる、食肉価格の値下がりの損害の方が大きいんじゃないかと思う。

ただ、民主党政権=今の行政当局にまったく関係がないなんて、どう考えて出てくる言葉なのか。
非関税障壁を撤廃すると、民主政権が約束していただろうか。
マニュフェストをみると次のようにある。

http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/txt/manifesto2009.txt
52.東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する
○アジア・太平洋諸国をはじめとして、世界の国々との投資・労働や知的財産など広い分野を含む経済連携協定EPA)、自由貿易協定(FTA)の交渉を積極的に推進する。その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない。

太字の部分が書かれたことについては、次の経緯がある。

民主党マニフェスト/“日米FTA締結”明記/農業壊滅 批判に大あわて - ライブドアニュース
民主党が27日発表したマニフェスト政権公約)に「米国との間で自由貿易協定(FTA)を締結」すると明記したことが、農業関係者の反発を呼び、各党から批判を受けるなど、大きな波紋を広げています。批判の強さに驚いた民主党は、対応に追われています。
(中略)
批判に対し、民主党の29日の声明は、「日本の農林漁業・農山村を犠牲にする協定締結はありえない」と釈明しました。菅直人代表代行も同日の記者会見で、「米などの主要品目の関税をこれ以上、下げる考えはない」などと述べました。

これをみれば、政権を取った段階で、民主党農政のオリジナリティは、農家の戸別所得補償と農協の政治的中立であったことは明々白々であるから、対応の遅れについて、畜産業の収益構造が原因の1つにあることは間違いないが、これと前政権との関係を結びつけるのは、正確ではない(この記事を書いた医師が日本医師会=民主支持なればこそ、こんなことをするとさえ勘ぐれなくもない)。
要は、政治的な視点から見ると、この保護について、民主主義(数の論理に基づく支持母体の強さ)に則り、支持を得ているからこそ、行政がその支持の声を無視することができなかったことに過ぎない。


(現に、2chだって、今回の畜産農家には、同情的で、義援金まで募っていたりしたではないか!)


殺処分難航の過程をつぶさにみても、行政が手を焼いているのは、補償やその額の決定ではなかったか。
それは、避けられようもないことで、多くの人の生活がかかっているし、畜産業を成り立たせるために今までかかってきたコスト(種牛を育てるのだってそう)は並大抵でない。
(金曜の太田総理で、勝間和代さんが消費税を今後10年上げないために、独立行政法人への政府からの補助を止めてはどうかといったことに対し、金美齢さんが、国立大学をスクラップにしたときにこれを作り上げるためにかかってきたコストの無駄を考えるべきだと主張したことを思い出してほしい)


先の医師のエントリーの締めは、こうなっている。

しかし、食肉価格の値下がりは、生産者にとっては損失となるが、消費者にとっては利益となる。日本が、口蹄疫「汚染国」になったことは、必ずしも悪いことではない。

こういう輩に限って、高級肉を食べているだろうから、よく考えてほしい。
経営が難しくなった畜産農家は、刺しの入ったA5級の牛肉など作れなくなることは想像に難くない。
我々は肉食文化でないからこそ、赤身を主食として食べるのではなく、フォアグラみたいなメインディッシュとするために、A5級の牛肉を食文化として生み出したのだ。
この保護を反故にすることは、文化さえもシフトチェンジする=魂を売ることに等しいとも言えるのだ。